SECTION 04
管理職への移行 ― 最も多く見られる誤解
総務職が管理職に移行するとき、最も多く見られる誤解があります。
それは「業務の量と年数が、管理職の資格を証明する」という思い込みです。
10年間、正確に給与計算をしてきた。
5年間、ミスなく契約書を管理してきた。
それは確かに価値ある実績です。
しかし管理職に求められるのは、「自分が正確にできること」ではなく、「誰でも正確にできる組織を設計できること」です。
| 観点 | 一般職の思考 | 管理職の思考 |
|---|---|---|
| 仕事の対象 | 自分の業務 | チーム・部門全体の業務 |
| 問いの立て方 | 「どうやって自分がやるか」 | 「誰でもできる仕組みを作れるか」 |
| 報告の性質 | 事実の伝達 | 問題提起と解決案の提言 |
| 時間軸 | 当日・今週 | 四半期・年度・中期 |
| コスト意識 | 与えられた予算で動く | コスト構造を設計・管理する |
総務管理職の「管制塔機能」とは
総務の管理職が特に意識すべきは、「各部門間の情報と機能の交通整理」です。
営業が無謀な契約をしようとしていないか。
人事制度が実態と乖離していないか。
経費の使われ方に問題はないか。
法令上のリスクが生じていないか。
これらを「見えていても言わない」のは、管制塔が電源を切っているのと同じです。
管理職としての総務は、「不都合な事実を経営者に届ける」勇気と責任を持たなければなりません。
これは対立を生むためではなく、組織を守るためです。
経営者に「都合の良い情報だけ」が届く組織は、静かに、しかし確実に衰退します。
▲ 管理職への移行で陥りやすい勘違い
- 「管理職になったのだから部下に任せればよい」→ 任せる前に仕組みを作る責任がある
- 「自分が一番詳しいから自分でやった方が早い」→ これは管理職の失格条件
- 「問題を上に上げると自分の評価が下がる」→ 問題を隠す方が組織全体のリスクになる
- 「経営のことは経営者に任せればよい」→ 情報を提供するのは管理職の職責
経営職への移行 ― 「責任の質」が根本から変わる
前回のブログ(組織における役割と実際②)で詳述したように、経営職とは「方向を決める者」です。
営業出身であれ総務出身であれ、経営者に求められる能力は共通しています。
しかし総務出身の経営参画者には、他の職種とは異なる固有の強みがあります。
それは「組織の全体像と実務のリアルを同時に把握している」という視座です。
| 総務出身の経営者の強み | 経営職移行に向けて習得が必要なこと |
|---|---|
| 組織の実態(人・法・コスト・リスク)を知っている | 不確実性下での意思決定(数字がなくても動く判断力) |
| コンプライアンスと法的リスクへの感度が高い | 投資判断・事業撤退の決断(不採算を切る覚悟) |
| 感情的になりにくい、冷静な分析力 | 市場・競合・外部環境への戦略思考 |
| ガバナンスと役割分担の設計ができる | 孤独な判断への精神的耐性と責任の覚悟 |
| 各部門の業務フローを構造的に把握している | 資金調達・財務管理の実践的理解(PL・BS・CF) |
経営職に就く最低条件
前回のブログでも述べましたが、経営の椅子に座る資格は「能力と責任を負う覚悟」によってのみ与えられます。
総務出身であっても、以下のことが最低限クリアできなければ、経営参画はあくまでも名目上のものに過ぎません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 財務読解力 | PL・BS を理解し、キャッシュフローの動きを経営判断に活かせる |
| 法的責任の受容 | 取締役としての法的責任(会社法・労働法・税法)を理解し負える |
| 組織設計能力 | 人事評価制度・報酬体系・役割定義を設計・改定できる |
| 不採算の判断力 | 感情を排し、継続不可能な事業・取引を終わらせる決断ができる |
| 資源配分能力 | ヒト・モノ・カネを全体最適の視点で配分できる |

SECTION 06
組織バランスという視点 ― 営業の「勘違い」を防ぐための構造設計
繰り返しになりますが、弊社が総務を「管制塔」と位置づける理由の一つは、営業職を含む売上貢献部門が勘違いしないための、組織バランスのリスクヘッジにあります。
「売上を作っているから、自分が最も会社に貢献している」。
この感覚は、人間の心理として自然に生まれます。
無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)のひとつと言えるでしょう。
この感覚が組織内で肥大化すると、何が起きるか。
▲ 「売上至上主義」が組織にもたらすリスク
- 採算の合わない取引を断れない(価格基準の崩壊)
- コンプライアンスより受注を優先する文化が生まれる
- 営業インセンティブが財務を圧迫し始める
- 特定顧客・特定担当者への依存リスクが高まる
- ブランドが毀損されても「売れているから問題ない」と正当化される
- 「売れる人間が偉い」文化が定着し、組織全体の質が下がる
これらを防ぐのは、精神論でも、営業への訓告でもありません。
「制度・規程・評価の仕組み」として、構造的に制御することです。
そしてその仕組みを設計・運用するのが、管制塔としての総務の重要な職責なのです。
そして、小さな会社ほど、総務の強さが会社の強さになる!
小さな会社は人の多さで勝てないため、総務が情報・仕組み・役割を整えることで勝ち筋を作る必要があります。
売上規模が20億にも満たないような小規模企業では、総務の役割はさらに重要になります。
大企業であれば、人員の多さで補えることがあります。
部署ごとに担当者がいて、仕組みもあり、誰かが抜けてもある程度は回る。
しかし、小さな会社は違います。
一人が抜けるだけで業務が止まる。
一人の営業に顧客情報が集中する。
社長が実務に埋没する。
感情で判断が揺れる。
ルールが曖昧なまま仕事が進む。
だからこそ、小さな会社ほど総務が強くなければなりません。
人が少ないなら、属人化を減らす必要があります。
情報が散らばるなら、顧客・契約・課題を一元化する必要があります。
営業個人に依存しやすいなら、営業後工程を標準化する必要があります。
社長が実務に埋没しやすいなら、経営判断材料を整える必要があります。
感情で判断しやすいなら、役割・責任・権限を明文化する必要があります。
小さな会社は、大企業のように人の数で勝つことはできません。
だからこそ、情報の速さ、判断の速さ、改善の速さで勝つ必要があります。
その速度を生むのが、管制塔としての総務です。
これはランチェスター的に見ても重要です。
弱者は、強者と同じ土俵で全面戦争をしてはいけません。
勝てる場所を選び、限られた資源を集中させ、局地戦で勝つ。
そのためには、情報が一元化され、営業成果が会社の資産になり、経営者が未来判断に集中できる状態が必要です。
総務は、その状態を作る中心になりえるのです。

まとめ ― 三段階のキャリアで問われること
| ステージ | 本質的に問われること | 成長の鍵 |
|---|---|---|
| 一般職 | 「作業」を「仕事」にできているか。 なぜその業務が存在するのか理解しているか。 |
Why・How を止めない問い続ける習慣 |
| 管理職 | 「自分がやる」から「組織が動く仕組みを作る」に転換できているか。 不都合を経営に届けられるか。 |
全体最適の視点と、勇気ある報告 |
| 経営職 | 「会社の存続責任」を本当の意味で背負える覚悟があるか。 感情ではなく、役割と能力で判断しているか。 |
孤独な決断への耐性と、財務・法的責任の理解 |
そして、どのステージにおいても共通して問われることがあります。
それは、「固定観念(アンコンシャス・バイアス)に気づき、問い続けられるか」です。
「総務はこういうものだ」
「一般職はこの範囲の仕事をするものだ」
「管理職はこうするものだ」。
これらの固定観念こそが、成長を止める最大の敵です。
年齢を重ねるほど、この固定観念は強化されやすい。
「而立(30歳)」「不惑(40歳)」という言葉には意味があります。
30代半ば以降になお、「自分には関係ない」「時代に合わない」「世間は、一般的には~」「これは、そういうものですよ」
などと言い続ける人は、少なくともマネージメントには不適格です。
大切なのは、「どのようにすれば出来るのか?」という前向きな問いを、何歳になっても持ち続けることです。
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